閉じる

P.A.WORKSインタビュー 【最終回】

――小説のアニメ化ということで、どうビジュアルを構築するかは見所の1つです。


吉原 そうですね。ただ、それは難しさでもあって、たとえば矢三郎は原作では冒頭から女子高生姿で登場するんですよ。第1話では普段の腐れ大学生姿は回想シーンでしか出てこない。お母さんにしても、普通の姿と宝塚風の男装姿があるわけで、こういう狸が化けた姿を、どうやったら視聴者の皆さんに混乱せずに見てもらえるか、そこから結構さじ加減が難しい要素がありました。アニメでわりとおもしろく膨らんだと思うキャラクターは、矢三郎たちと対立することになる金閣ですね(笑)。キャラクター原案の発注の段階で、サモ・ハン・キンポーと、ペ・ヨンジュンを混ぜてっていうお願いをしたんですが、今はもうこの姿しか考えられないです(笑)。


堀川 しかも、「首から下がペ・ヨンジュンのイメージ」だからね。それはわからない(笑)。


吉原 (笑)。キャラクターにせよ、「空飛ぶお座敷」や「偽寺町通り」といった舞台にせよ、言葉で書かれていたものをビジュアル化すると、どうしてもイメージを限定してしまいます。そこは難しかったですね。



――原作は京都が舞台ですが、ロケハンなど行われたんでしょうか。


吉原 ロケハンもしましたが、ロケハンをすれば大丈夫かといえば、そういうわけでもないんです。そもそも京都という街は、もう森見さんの一部なんです。そこにどうやって割り込んで、アニメなりの京都を描くか。そこが一番悩んだところです。森見さんと同じように京都を理解するというのはとても大変なことで、最初に企画をもらった時は冗談で言ったんですよ。「舞台を京都から、僕らに土地勘のある富山に移したらできるかもしれない」って言ったんですよ。でもそれぐらい『有頂天家族』というか、森見作品には京都というのは重要なわけで。それで、少しでもその視線を共有できないかと考えて、制作が始まる前に、アパートを借りて自分一人で1カ月ぐらい京都に住んだんです。


――実際に、住んでみたんですか!


吉原 短い期間とは言え、やっぱり実際に住んでみないとわからないかなと。赤玉先生のアパートに近いところ、作品にも出てくる出町柳商店街のそばに部屋を借りまして、そこを拠点にあちこち歩いていってみたりして、土地勘をつかもうとしました。そうしているうちに、「糺ノ森とはわりと近いな」とか、「南座までは遠いけどバスで行けばいいかな」とか、そういう感覚が身についてきました。矢三郎たちは、狸のわりには結構行動範囲が広いんだなということもわかってきて、これなら偽京都人として京都を描いても、まあ、許してもらえるかな、くらいには馴染めたつもりです(笑)。


京都ロケハンでも使われた機材たち


――そのあたりが実際の映像作りに生かされるわけですね。今回は吉原監督自ら、かなりの話数のコンテを描かれたそうですね。


吉原 全13話のうち、9話分描いてますね。


堀川 きっとこだわって、ほかの方に絵コンテをお願いしても直してしまうだろうから、最初から自分で描いたらと言ったんです(笑)。


吉原 (苦笑)『有頂天家族』のような作品だとアクションだったり、ビジュアルのイメージだったりは、シナリオはあくまで言葉の範囲で書いていてもらって、絵コンテで膨らませるところがでてきます。シナリオを直すんじゃなくて、シナリオをイメージ通りに見せるために絵コンテで変えていくわけです。シリーズ構成の菅(正太郎)さんとは、いろんな作品で一緒にやっていて、そのあたりの暗黙の了解をわかってくださるんで、やりやすかったですね。


――そしてその絵コンテを使い、既に全話アフレコが終わっているとか。


堀川 過去に制作上の都合で、アフレコ後にカッティングをしたことが合ったんですが、それによって映像のクオリティが上がるということを実感したことがあります。そこで今回は絵コンテをベースに、先に役者さんに自分の“間”で演じてもらい、それを録音しました。役者さんの音声を聞きながらアニメーターが描くと、役者さんとアニメーターの描くキャラクターのテンションが合うというメリットがあります。今回はそれが画面にプラスに働いていますね。



――主人公の矢三郎は櫻井孝宏さんです。


吉原 矢三郎のような一見ポリシーもなにもないような、原作でいうところの「阿呆」なキャラクターに、櫻井さんのようなマジメな雰囲気の方を合せることで、おもしろい化学変化が起きるんじゃないかと思い、お願いしました。実際それがいい感じににじみ出て、アニメの矢三郎というキャラクターが出来上がっています。矢一郎の諏訪部順一さん、人間の姿に全然ならない矢二郎の吉野裕行さんなどは、明田川(仁)音響監督や、他のスタッフのみなさんが出してくださったアイデアの中から決めていきました。


堀川 中でも、吉原がこだわったのは淀川教授だよね(笑)。


吉原 目立ちすぎず、でも埋もれもせず、しかもうんちくをしゃべっても嫌味に聞こえない方ということで、この方しかいないだろうという方にお願いしました(笑)。まだ発表になってませんが、後半のキーパーソンの一人ですね。



――では最後に、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。


堀川 まず原作がおもしろいです。そのおもしろい原作に、動きや色といったアニメーションとしての面白さが加わって、さらに魅力的になっています。僕らP.A.WORKSは、こういう作品をおもしろいと思っているし、これからもこういう作品を作りたいと思っていますから、そういう気持ちが映像を通じて皆さんに届くといいなと思っています。


吉原 森見さんの小説のキャラクターたちは、みな森見さんが乗り移っているんだと思います。そんな森見作品に漂う「人の良さ」みたいなものが薫る作品になっていれば、と思い制作しています。そうすれば原作の、クスっと笑ってしまうようなおもしろさが、そのままアニメにも生きてくると思いますので。ぜひ放送を楽しみにしていてください。