閉じる

P.A.WORKSインタビュー 【第三回】転機となった作品と人材育成

――P.A.WORKSの歩みを振り返った時、転機となった作品は何になるでしょうか?


堀川 一つは、グロス受け(TVシリーズ1話分の制作をまるまる引き受けること)を中心に仕事をしていた時期の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002年)と『鋼の錬金術師』(2003年)ですね。この2作品をやったことで、P.A.WORKSというアニメを作っている会社が富山にあるんだ、ということを認知してもらえました。社員募集に対する応募数が、この2作品をやった後にはどっと増えました。作品的にも、監督が求めるのならばちょっと大変で地味な芝居でも逃げずにやるんだよ、ということを示すことができた作品だったので、こういうものを作る会社だよということも併せて認知してもらえたかな、と。



――続く転機は何でしたか。


堀川 次はやはり『true tears』(2008年)です。1~2年ほど前から、季節の折々に、ご縁のあったファンの方々に「今はこんな作品をやっています」という案内を往復はがきで送るようにしているんですが、それにいただく返事を見ると、未だに『true tears』のことを書いてくださる方が多いんですね。そして『true tears』から今の作品にまで通じる一貫した“P.A.WORKSらしさ“というものを感じてくださっている。もちろん、脚本の岡田麿里さんほか、共通したスタッフが参加していることもあるのでしょうけれど、うちの会社の作品のある種のカラーがあって、それを好ましく思ってもらえているのなら、そこは求められている部分として大切にしなくてはな、と思います。おかげで現在ではP.A.WORKSのカラーが、ファンだけでなく、クライアントにも伝わっていて「この作品はP.A.WORKSらしい雰囲気で作ってください」と言っていただけることもあります。



――スタッフ育成には関与しつつも、TVシリーズを監督することがなかった吉原監督としては、これまでの歩みをどうごらんになりますか。


吉原 これは、人が集まらない状況からスタートして、堀川が制作として積み上げてきたことの成果だと思います。個別の作品については、外側から見ている僕としては、この題材を自分が監督したらどうするだろう、という目線で見てしまう感じで(笑)。


堀川 クリエイターっていうのは大概そうだよね(笑)。


吉原 育成という観点で言うと、監督さんによる流儀の違いを意識しながら育成する、というのはちょっと難しいところではありました。専門学校的に普遍的なことを教えたいわけではなくて、やっぱりP.A.WORKSという会社に僕が必要だと思うことを伝えたいので、各作品で求められていることとの兼ね合いというのはありました。いずれにせよ、会社として考えると、この仕事をやりたいと思って入ってきた子たちの意識をどう繋げていってあげられるか。そこは、僕は堀川がずっと考えていかないといけないことだと思いますね。


堀川 そうですね。人を育てることは決して計算通りにいく簡単なことではないです。でもその簡単でないことと格闘しなくてはならないし、現時点でも、技術レベル的にも生産量的にもまだまだ目標には達していないわけで、まずは目標を目指して粘り強くやっていくしかないですね。


P.A.WORKSにある作業机のひとつ。


――たとえばP.A.WORKSは2010年度には若手アニメーター育成プロジェクト「PROJECT A」(現在の「アニメミライ」)に参加して、吉原監督で『万能野菜 ニンニンマン』を制作しています。これは吉原さんの目指すP.A.WORKSの方向性なのかなとも思ったのですが。


吉原 そうですね。ああいう描きたい物語がありつつも、ヘンに偏ったものではなくシンプルな作画のおもしろさを出していける作品というのは、ちゃんとシリーズで作ってみたいものではあります。


吉原監督の席の後ろに詰まれた多くの設定資料。


――では、P.A.WORKSのあゆみからすると『有頂天家族』はどういう位置づけになるでしょうか。


堀川 毎回新たな作品に取り組むたびに作画的な課題も見つけて取り組んでは来ました。ただ、これまで『有頂天家族』のようなものは無かったんですよ。『有頂天家族』はアニメーション本来の動かしたい願望というか、気持ちよく動いているものを見る楽しさというか、そういうものを存分に発揮できる作品になるはずです。ただ、それは今のP.A.WORKSにとっては全力で当たらなくてはクリアできない目標でもあるんです。ここをちゃんと全力で作り上げて、それがファンのみなさんに評価していただければ、『true tears』が新しい扉を開いてくれたように、また新しい企画の可能性が広がると思うし、スタッフが先に進む大きな励みにもなるはずです。


――ありがとうございます。では、次回の最終回では、アニメ『有頂天家族』の具体的な内容についてうかがいたいと思います。