――P.A.WORKSが『有頂天家族』をアニメ化する、というのは大きなニュースだと思いますが、堀川さんは原作の『有頂天家族』のどこに魅力を感じたのでしょうか?
吉原正行(監督)
1968年生まれ。アニメーターとしてスタジオライブに入社後フリーに。「THE 八犬伝 ~新章~」参加中に美術監督を担当していた神山健治氏(攻殻機動隊S.A.C.シリーズ監督)と出会い、徐々に演出にシフトしていく。2001年、P.A.WORKS立ち上げ時よりP.A.WORKSの演出となり、今作で満を持してTVアニメーションシリーズ初の監督を務める。
堀川憲司(P.A.WORKS代表 / アニメーションプロデューサー)
1965年愛知県生まれ。大学在学中にアニメーション制作を志し、プロダクションIGなどアニメーションスタジオでラインプロデューサーを務めたあと、2000年 妻の故郷である富山県南砺市城端で本作の監督、吉原正行を制作メンバーに「(株)越中動画本舗を設立」。2002年現社名 「(株)ピーエーワークス」に社名変更。主なプロデュース作品にtrue tears、CANNAN、Angel Beats! 、花咲くいろは、TARI TARI 他
堀川 一番最初に読んだ森見(登美彦)さんの作品が『有頂天家族』でした。一読してすぐ森見さんのファンになって、ほかの小説もいろいろ読むようになりました。そうしてみると、森見さんの作品には共通して文章、文体のおもしろさがある一方で、ことストーリーに関しては『有頂天家族』というのは森見作品としては異色ともいえる作品だなと思いました。まず、かなりの数のキャラクターが登場します。しかも皆、コンプレックスや足りないところを持っていて愛すべき存在なんです。そしてその足りない部分がストーリーをゴロゴロとひっぱっていくんですね。そのストーリーも、森見作品としては珍しい、読んでいて泣ける、正統派の心温まる物語で。さらにスペクタクルも含め、ビジュアルの妄想をかき立てるシーンも多くて、これをアニメーションにできるなら是非したいと思いました。
吉原 僕は堀川から、監督をという依頼とともに『有頂天家族』を渡されました。ただ森見さんの小説はそれ以前に何冊か読んでまして。というのも僕が副監督で参加した『東のエデン』という作品で、本読みの時に「気の利いたセリフを書く作家」として森見さんの名前がしょっちゅう出てきていたんです。それで『太陽の塔』を皮切りにいろいろ読みました。……とはいえ『有頂天家族』はアニメ化を前提で読んだので、「おもしろいな」というのと同時に「これをどう表現すればいいんだろう」と考えながら読み進めました。
――吉原監督が「この作品を監督できる」と思ったポイントというのはありますか?
吉原 『有頂天家族』は家族ものです。これが子供がいる親の視点だったとしたら自分は結構考えてしまったと思います。でも、子供側からの物語だったので、それなら自分なりにやることができるかなと思いました。
――具体的に、このシーンはおもしろかったというところはどこでしたか。
吉原 物語の序盤で、雷が鳴り始めると、雷嫌いのお母さんのもとに矢一郎、矢三郎、矢四郎の兄弟が駆けつけるシーンがあるんです。そこを読んだとき、僕はこの作品をやろう、と決めたんです。各キャラクターが割りと普段は勝手にやりたいようにやっているんですけれど、雷が鳴ったときは「母ちゃんが苦手だから」という理由だけでみな母親の元に集まる。どんな家族にも、そういう「よそはどうか知らないけれど、うちではそうすることになっている」っていうことってありますよね。その家族の家族らしい部分を描いているところが、まさにこの小説にリアリティを感じて、おもしろいと思ったところでした。冗談で「もう、アニメはここで最終回にしてしまおうよ」というぐらい(笑)印象的でした。
堀川 僕は、僕自身が男三兄弟の二番目だったので、そういう視線で読んでしまう部分がありましたね。だから兄弟の父親・総一郎が後半回想で登場して天狗の赤玉先生と絡むところは強い印象を持ちました。ここを描きたいよなと思いました。
――男兄弟の物語であるというのは、『有頂天家族』の大きな特徴ですよね。
吉原 そうなんです。本読み(脚本打合せ)の間も、参加している人間のそれぞれの立場が出ておもしろかったですね(笑)。P.A.WORKSの専務は、長男だそうで、矢一郎を見ていると「そう、長男ってこんなんだよなぁ」と思うそうなんです。僕なんかは、長男ですけど上に姉がいるので、どっちかというと末っ子で。だから末っ子なりに『有頂天家族』を読んでいるところがありますね。
――堀川さんはどうしてこの『有頂天家族』の監督に吉原さんを、と思われたのですか?
堀川 吉原君はずっとプロダクションI.Gで『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』など神山健治監督作品に携わっていて、結構ハードなものをやってきたんです。でも吉原君って、実はもっと人間くさい、感情の幅のあるような作品が向いていると思っていたんですよ。さらにディズニーも好きなので、柔らかい動きで動かしてなんぼ、という作品も合うだろうと。そうした時に『有頂天家族』という企画はまさにそれにぴったりだったんです。
――「動かしてなんぼ」ということはアニメ『有頂天家族』は、作画的にも見応えがある作品になる、と。
堀川 今回、僕は覚悟を決めましたから(笑)
吉原 (笑)。確かにアニメ『有頂天家族』には動きのおもしろさもあります。でも、実際に演出をしはじめると、むしろ森見さんのダイアローグの魅力がすごいことに改めて気付かされるんですよ。そのダイアローグをどう聞いてもらうように演出するか、ビジュアルはそれを補完するもので、邪魔にならないように。そこに気を配っています。
――映像の完成が楽しみです。では、次回からは『有頂天家族』に至るP.A.WORKSの歩みをうかがいたいと思います。
――P.A.WORKSが『有頂天家族』をアニメ化する、というのは大きなニュースだと思いますが、堀川さんは原作の『有頂天家族』のどこに魅力を感じたのでしょうか?
吉原正行(監督)
1968年生まれ。アニメーターとしてスタジオライブに入社後フリーに。「THE 八犬伝 ~新章~」参加中に美術監督を担当していた神山健治氏(攻殻機動隊S.A.C.シリーズ監督)と出会い、徐々に演出にシフトしていく。2001年、P.A.WORKS立ち上げ時よりP.A.WORKSの演出となり、今作で満を持してTVアニメーションシリーズ初の監督を務める。
堀川憲司(P.A.WORKS代表 / アニメーションプロデューサー)
1965年愛知県生まれ。大学在学中にアニメーション制作を志し、プロダクションIGなどアニメーションスタジオでラインプロデューサーを務めたあと、2000年 妻の故郷である富山県南砺市城端で本作の監督、吉原正行を制作メンバーに「(株)越中動画本舗を設立」。2002年現社名 「(株)ピーエーワークス」に社名変更。主なプロデュース作品にtrue tears、CANNAN、Angel Beats! 、花咲くいろは、TARI TARI 他
堀川 一番最初に読んだ森見(登美彦)さんの作品が『有頂天家族』でした。一読してすぐ森見さんのファンになって、ほかの小説もいろいろ読むようになりました。そうしてみると、森見さんの作品には共通して文章、文体のおもしろさがある一方で、ことストーリーに関しては『有頂天家族』というのは森見作品としては異色ともいえる作品だなと思いました。まず、かなりの数のキャラクターが登場します。しかも皆、コンプレックスや足りないところを持っていて愛すべき存在なんです。そしてその足りない部分がストーリーをゴロゴロとひっぱっていくんですね。そのストーリーも、森見作品としては珍しい、読んでいて泣ける、正統派の心温まる物語で。さらにスペクタクルも含め、ビジュアルの妄想をかき立てるシーンも多くて、これをアニメーションにできるなら是非したいと思いました。
吉原 僕は堀川から、監督をという依頼とともに『有頂天家族』を渡されました。ただ森見さんの小説はそれ以前に何冊か読んでまして。というのも僕が副監督で参加した『東のエデン』という作品で、本読みの時に「気の利いたセリフを書く作家」として森見さんの名前がしょっちゅう出てきていたんです。それで『太陽の塔』を皮切りにいろいろ読みました。……とはいえ『有頂天家族』はアニメ化を前提で読んだので、「おもしろいな」というのと同時に「これをどう表現すればいいんだろう」と考えながら読み進めました。
――吉原監督が「この作品を監督できる」と思ったポイントというのはありますか?
吉原 『有頂天家族』は家族ものです。これが子供がいる親の視点だったとしたら自分は結構考えてしまったと思います。でも、子供側からの物語だったので、それなら自分なりにやることができるかなと思いました。
――具体的に、このシーンはおもしろかったというところはどこでしたか。
吉原 物語の序盤で、雷が鳴り始めると、雷嫌いのお母さんのもとに矢一郎、矢三郎、矢四郎の兄弟が駆けつけるシーンがあるんです。そこを読んだとき、僕はこの作品をやろう、と決めたんです。各キャラクターが割りと普段は勝手にやりたいようにやっているんですけれど、雷が鳴ったときは「母ちゃんが苦手だから」という理由だけでみな母親の元に集まる。どんな家族にも、そういう「よそはどうか知らないけれど、うちではそうすることになっている」っていうことってありますよね。その家族の家族らしい部分を描いているところが、まさにこの小説にリアリティを感じて、おもしろいと思ったところでした。冗談で「もう、アニメはここで最終回にしてしまおうよ」というぐらい(笑)印象的でした。
堀川 僕は、僕自身が男三兄弟の二番目だったので、そういう視線で読んでしまう部分がありましたね。だから兄弟の父親・総一郎が後半回想で登場して天狗の赤玉先生と絡むところは強い印象を持ちました。ここを描きたいよなと思いました。
――男兄弟の物語であるというのは、『有頂天家族』の大きな特徴ですよね。
吉原 そうなんです。本読み(脚本打合せ)の間も、参加している人間のそれぞれの立場が出ておもしろかったですね(笑)。P.A.WORKSの専務は、長男だそうで、矢一郎を見ていると「そう、長男ってこんなんだよなぁ」と思うそうなんです。僕なんかは、長男ですけど上に姉がいるので、どっちかというと末っ子で。だから末っ子なりに『有頂天家族』を読んでいるところがありますね。
――堀川さんはどうしてこの『有頂天家族』の監督に吉原さんを、と思われたのですか?
堀川 吉原君はずっとプロダクションI.Gで『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』など神山健治監督作品に携わっていて、結構ハードなものをやってきたんです。でも吉原君って、実はもっと人間くさい、感情の幅のあるような作品が向いていると思っていたんですよ。さらにディズニーも好きなので、柔らかい動きで動かしてなんぼ、という作品も合うだろうと。そうした時に『有頂天家族』という企画はまさにそれにぴったりだったんです。
――「動かしてなんぼ」ということはアニメ『有頂天家族』は、作画的にも見応えがある作品になる、と。
堀川 今回、僕は覚悟を決めましたから(笑)
吉原 (笑)。確かにアニメ『有頂天家族』には動きのおもしろさもあります。でも、実際に演出をしはじめると、むしろ森見さんのダイアローグの魅力がすごいことに改めて気付かされるんですよ。そのダイアローグをどう聞いてもらうように演出するか、ビジュアルはそれを補完するもので、邪魔にならないように。そこに気を配っています。
――映像の完成が楽しみです。では、次回からは『有頂天家族』に至るP.A.WORKSの歩みをうかがいたいと思います。